小栗上野介随想 ●● 横須賀造船所は日本の産業革命の地 |
日本産業革命の地 |
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横須賀造船所は 「蒸気機関を原動力とした日本最初の総合工場」 だった |
従来、日本の工業の原動力は人力・牛馬・水車までだった。横須賀製鉄所ははじめから蒸気機関を原動力としていたから「蒸気機関を原動力とする日本最初の総合工場」といえる。まさに日本の産業革命の地である。司馬遼太郎が「日本の近代工学のいっさいの源泉」(「三浦半島記」)と書いたのは、このことを指す。 |
横須賀造船所建設で現場を指揮した栗本鋤雲(じょうん)は、「小栗は、これができあがれば土蔵付き売家の栄誉が残せる、と笑った」と回想している。 |
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ワシントン海軍造船所見学 1860萬延元年4月5日 (前列右から2番目が小栗上野介) |
この時案内されて造船所に入ると、そこは造船だけの施設ではなかった。建ち並ぶ工場では、蒸気機関の仕掛けにより大砲をくりぬき、ライフル銃、砲弾、弾丸が次々に造られ、船体は木造だから木工所も備えた総合工場だった。「日本人は熱心に見学している」と書いたニューヨークタイムズは続けて「とくに小栗は近い将来日本にこういう施設をぜひ造りたい、と熱心に語った」と報じている。 |
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▲クレーン 30トンクレーンが初めに設置された |
さて大勢のフランス人技師が指図しても、日本人の大工、石工、鍛冶屋はフランス語がわからない。横浜に設けた日本最初の仏語伝習所で学んだ若者が現地で仏人技師の言葉を伝え、鱟舎で学んだ職工がゆくゆくは出来上がった造船所の幹部に育ってゆくシステムも作った。養子小栗又一もここで学んだ。明治維新後、工事は明治政府に引き継がれ、明治二年ごろから本格稼働、同四年から本格的な造船を開始して、海運国日本の原動力となった。 |
こうした彼の業績を、のちの歴史家は「徳川幕府強化のために横須賀造船所を造った」と逆賊視する根拠としてきた。しかし、フランス語が出来ることから日本側責任者となって、現地を指揮した栗本鋤雲(じょうん)は明治中ごろに当時を思い出し「小栗は、これが出来上がれば、土蔵付き売家の栄誉が残せる、と笑った」と書いている。 (2000・平成12年3月11日・上毛新聞オピニオンに加筆) |
○小栗上野介の名言「土蔵付き売家」 を栗本鋤雲の創作とする説 小栗上野介が「土蔵付き売家の栄誉」と語ったと書いた栗本鋤雲の文章は疑わしい、栗本鋤雲の創作だろうという説が発表されました。その説によると、 「小栗上野介が3年半後の幕府瓦解を予見する「土蔵付き売家」というセリフを口にするのは疑わしい」 として 「栗本鋤雲は、非業の死を遂げた小栗上野介をいたんで花を持たせるべく事実を並べ替え、創作を挟んだに違いない」(安達裕之「横須賀造船所と小栗忠順」『小栗忠順のすべて』P122・新人物往来社・2008平成20年刊) というもので、小栗上野介のそのような先見性は考えられない、という先入観を前提とするもの。この説がそのまま受け入れられれば、それを前提として安達氏が次のように言うのも受け入れることになる。 「(小栗上野介は1864元治元年)八月十三日の勘定奉行就任後、初めて製鉄所の設立計画が進行中であることを知ったはずである」(『同 書』P136) |
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