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 香りのよい花を供える

 
仏前にお花を供(そな)える時、私たち日本人は彩(いろど)りを中心に考えていますね。
 ご葬儀のあと四十九日までは赤や黄色などの派手な色を避(さ)け、白い花を中心にしている方が多いようです。
 
 でも、仏教の発祥(はっしょう)の地インドでは香りのよい花をお供えするのが基本でした。
 
かつて、インドヒマラヤへ登山に行ったことがありました。
 まだ日本人がほとんど入っていないインド北西部の氷河の奥にそびえる、6000mちょっとの誰も登ったことのない山を目ざしました。

 ニューデリーからバスを雇って二日走り、山麓(さんろく)の町マナリで最後の準備をし、バスで標高4000mの峠を越え山をめざします。

バスを降りると、たくさんの装備食料は馬で運んでもらい、歩いて山の中へ入ってゆきます。標高4000mを超える高原地帯は年間雨量が日本の一ヶ月分くらいしかない乾燥地帯ですから、木は一本も見えず僅(わず)かな草が生(は)えているだけ。日本では想像しがたい景色です。
          
           ▲夏の間移動してきて、羊を放牧する

 途中、人も荷物もワイヤーロープ一本にぶら下がって氷河から流れてくる濁流(だくりゅう)の川を越えたあと、草原に上がり夏の間羊飼いたちが羊を連れて移動してきて草を食べさせている草地を歩いて、しだいに雪が光る山々に近づきました。

しばらく行くと、草原に現地の人が集まっているのが見えます。今日はちょうど羊飼いたちがお祭りをする日だと聞いていましたので近づいてゆくと、小さな祠(ほこら)があってあちこちから集まった20人ほどの羊飼いたちがお参りしていました。

 私たちも登山の成功と無事を祈ってお参りさせてもらうことにして、インドルピーのお賽銭(さいせん)と途中で摘(つ)んできた草花を供え、私はお経をあげました。

 私たちのお参りが終わると、羊飼いの一人がお供えした花を取り上げて、怪訝(けげん)そうに匂(にお)いを嗅(か)いでいます。私たちは花がきれいならいい、という感覚で摘んできましたから、香りのないエーデルワイスなどの花がほとんどです。そうか、インドでは香りのない花はお供えしないのだ、とあらためて気づきました。

▲草原の祭りで登山の無事成功を祈る(白いズボンが住職)
◆1980年群馬高校教職員インドヒマラヤ登山隊

登山は無事成功して全員が頂上に立つことが出来、初登頂を喜びながら全員無事にベースキャンプまで下りてきました。
 翌朝8月15日、朝早くからテントの外に人声がして目がさめました。外を見ると現地マネージャー役のマナリ登山学校のインストラクターやポーターたちインド人が集まって、テントポールをつないでロープで留め、立てようとしています。ポールの先にはインドの国旗が付けられています。
 
 そうか、今日は「インドの独立記念日」だった。永いイギリスの支配を脱して独立したことを、彼らはこの氷河の上で祝おうとしているのだ。我々も参列して敬意を表わそう、と隊員を集めました。

彼らはインド国歌を歌い、歌が終わると国旗の端(はし)に結び付けられていた紐(ひも)を引きました。旗の端は巾着(きんちゃく)のように結ばれていて、紐がほどけると中からパラパラと小さな花びらがたくさん散ってきました。

 あッ、これは「散華(さんげ)」だ。
 仏教の大事な儀式を行うとき最初にするのが「散華」。日本でも散華の経文を読みながら花びらにかたどった絵のきれいな紙の花びらを撒(ま)き、お香や浄水もともに一周して道場を清めます。本当の花びらを撒くことはなく、紙ですから香りもありません。

 でも、彼らの小さな紫の花びらを拾って匂いを嗅ぐといい香りがします。日本でジャコウソウという高山植物の仲間でした。

そういえば、昨日夕方に彼らの数人が氷河の対岸まで出かけてゆく姿を見ていました。何をしに行ったのだ…あまり気にとめずにいましたが、わざわざこのジャコウソウの花びらを探してきたのだ。
         
          ▲登山を終えてベースキャンプで
           (前列、白いズボンが住職)

 散華のあと、日本側を代表して挨拶をと言われ、インドが独立してますます発展していることを祝い、私たちの登山が成功したのもインドの人々の協力のおかげ、と御礼の挨拶をしました。私にとっては香りのよい花を供え、香りのよい花で散華するのが基本、と確認できた忘れがたい8月15日となりました。

                      2017平成29年10月30日制作
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