住職のコラム   シャバ・思い通りにならないから


  思い通りにならないから 
シャバ
 
 この世の中を世間とかシャバという。
 「世間」は字を見て何となく意味がわかるが、「シャバ」とは何だろう。

 漢字では「娑婆」と書くが、じつはこの文字を調べても言葉の意味は分からない。この漢字は発音記号でこう書いているだけ。もとの「シャバ」という言葉そのものに意味があり、古いインドの言葉「サハー」を中国で「娑婆」と漢字で書くようになり、仏教とともに日本に持ち込まれたらいつの間にか「シャバ」と読むようになったらしい。

 ではもとの「サハー」とはインドではどういう意味か。

 仏教では「忍土(にんど)」と訳している。
「忍土」とはつらいことや苦しいことをこらえる、忍耐
(にんたい)する、がまんするところ、
という意味。
 自分が生きているこの世間はいつもがまんすることや、忍耐しなければならないことが付きまとっている。……そういう意味になる。
 苦しみの場所だから「苦土
(くど)」と書くこともある。

 私たちは、ともすると苦しいのは自分だけ、つらいのは私だけ、がまんしているのは自分だけ、と思い込みがちです。そうじゃないよ、子供も大人も、年よりも、みんな生きてる限り苦しいことがついて回って、誰もがいつも何かをがまんしながら生きているんだ、ともう一度心を落ち着けて考え直すことが大事です。

 こう話したら、、先日「いちばん忍耐しなければならないのは何ですか」という質問がありました。

 皆さんはどう考えますか。
 

閻魔大王・えんまだいおう
境内の石仏・小栗公の墓入口
 
こういう時の私の立場は、一つ一つを取り上げて「あれです、これです」と答えても当てはまらない人がいるから、「誰にでも共通のこと」で説明しなければならない。困った立場に置かれました。

 とっさに私は、これかな、とひらめきましたので、
 「それは思い通りにならないということ、でしょう」と、お答えしました。

 お金も、品物も、道具も、食べ物も、なかなか思い通りにならないほうが普通のこと、まして生きてる人の心が思い通りにならないのは、当然のこと。自分の心さえコントロールできなくて、苦しむ人もいます。

 能登(のと)半島沖地震で本堂ほかすべての建物が一瞬に倒壊(とうかい)したお寺に、こちらの檀信徒の皆様からの浄財(じょうざい)をお送りしたところ、お礼状が届きました。

 「……今回の地震では様々なことを学びました。この世に生まれることも、生きてゆくことも、すべてあるがままのご縁であります。そのご縁とは私の思いを越えていて、手がつけられません。思い通りに行かないことが人生の真相です……」

 命拾(いのちびろ)いをしたお寺の方丈さんもやはり「思い通りにゆかないことが人生の真相」と述べておられました。

 生きている限り、思い通りにならないことがついてくる、と覚悟していれば落ち着いた生き方ができます。
                       (2008平成20年1月・東善寺だより117号)
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