住職の法話・(東善寺)     法話 思いどうりにならない・・・苦しみ


 いちばん思い通りにならないことは…

 
 この世に生きている限(かぎ)り、思い通りにならない苦しみやガマンしなければならないことは続く。だからこの世を「苦土くど」「忍土にんど」といい、古代インドの「サハー」が語源ですよ、中国で「娑婆・シャバ」という字が当てられて日本に持ち込まれました。→「シャバ」
 
 あるところでこの話をしたら、「思い通りにならないことは苦しみ、それはよくわかったけど、それでは、一番思い通りにならないことは何ですか」と質問(しつもん)がありました。

 みなさんはどんなことが「一番思い通りにならないこと」ですか。
 足が痛(いたむ・血圧が高いなど身体のぐあいが思い通りにならない、フトコロ具合(ぐあい)が思い通りにならない、息子が・カミさんが・ヨメさんが・会社の部下が…、いろいろ出てきますね。

 でも質問された私の立場(たちば)は、どなたにも共通(きょうつう)のことで言わなくちゃならない。そこがわたしの思い通りにならない苦しいところ・・・。
               
     
▲フロシキ観音
(東善寺境内)
 
 じつは最近私は、一番思い通りにならないことを経験(けいけん)しました。

 ある会場へ入ろうと、先に友人が免許証(めんきょしょう)を出して60歳位以上が割引(わりびき)になる「シニア券」を買いましたから、「私もシニア券を下さい」といいながらお金を出し、免許証を出そうとしたら、財布(さいふ)のカード入れに貼り付いていてなかなか出せない。

 後ろに人は並(なら)んでいるし、窓口(まどぐち)のお嬢(じょう)さんは待ってるし―、でカードを出そうと苦心しながら
「顔ではダメですかねえ〜」
と冗談(じょうだん)を言ったら、

「ハイ、いいですよ〜」と窓口のお嬢さんはあっさりシニア券を売(う)ってくれました。

 一瞬、嬉しいような、なんともフクザツな気分・・・。若い頃は60歳70歳はひとごとだったのに、あれから40年! いつの間にか自分のことになっていました。
 私にとって年齢の進行、月日の流れは止めようがない、これが思い通りにならないことでした。お釈迦様はこれを「諸行無常(しょぎょうむじょう)…同じことはいつまでも続かない、いつも変わり続けているよ、いいことも悪いことも・・・」、と説く。

 年齢(ねんれい)の進行・月日の流れが思い通りにならないなら、その始まりである「この世に生まれてきたこと」が一番思い通りにならないことでしょうねえ。気がついたときは生きていた、生まれてきていたのであって、親を選(えら)んだり、誕生日(たんじょうび)を選んだり、男か女かを選んで思い通りに生まれてきた人は誰(だれ)もいない。

 自分のいのちの始まりが思い通りでなかったのだから、その後の人生で思い通りにならないことが起きても「これはもう想定内」、と腹を据(す)えていればいちいち悩(なや)んだり、落ち込んだり、することが減(へ)ります。

 お正月の掲示板(けいじばん)

   「日日是好日(にちにちこれこうじつ) 
     毎日毎日を好(よ)い日にすることが 
     生きてる者の つとめ」

と書きました。今年も思い通りになりにくい人生に、ちょっとでもいいことがあったらそれは思い通りになったことと喜び、毎日を「好い日にする」ようつとめましょう。

                                               (2013平成25年1月)
◇関連ページ
シャバ…シャバとは苦しいところ、ガマンするところ

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