東善寺HP ●● 自作童話 ふしぎな手紙 佐竹海飛 富山県少年少女自作童話大会発作品 |
自作童話 富山県少年少女自作童話大会発表作品 |
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ふしぎな手紙 作:佐竹海飛 (さたけ かいと・高岡市戸出西部小学校 6年・2017平成29年制作) |
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今日は、楽しみにしていた菜の花祭りの日だ。ぼく達はオープニングで、菜の花の種が付いた風船を飛ばすんだ。 「少しでも遠くまで飛んでいくように、みんなの風船、まとめて飛ばそうよ。」 ぼく達は風船をからめ始めた。 「三、二、一、 せーの。」 風船はぐんぐん高く上がっていく。宇宙まで行きそうだ。ぼくは、今年こそ誰かのところに届いてほしいと願った。 五月のある日、ぼく達は校長先生に呼ばれた。 「あなたたちが飛ばした風船が、群馬県に住む人に拾われましたよ。ここにお手紙が届いていますよ。」 「ええっー。やったー、すごいな。」 ぼく達は急いで手紙を開いた。 「初めまして。私は栄吉といいます。木に引っかかっている風船を見つけ、菜の花の種が付いた紙に学校名があったので、お手紙を書いたのです。私は群馬県高崎市にあるお寺に住んでいます。ぜひ一度遊びに来てください。さようなら。」 ぼくは早くお母さんに知らせたくて、走って家に帰った。 「ねえねえお母さん。ぼく群馬県に行って栄吉さんに会いたいんだ。」 「何? 急に。」 ぼくは何度も何度もお願いした。ようやく一年後、その願いがかなった。 |
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ぼくは、北陸新幹線に乗り込んだ。 立山が白く輝いていた。海もキラキラしていた。初めての新幹線。一人旅はドキドキする。お父さんはぼくを心配し、ぼくの腕にお父さんの腕時計をはめてくれた。 新幹線はあっという間にトンネルに入った。「今何時かな」そう思い、ぼくは時計を見た。 「あれ、おかしいぞ。」 時計の針がグルグルと逆回りしている。気のせいかなと見ている間に高崎駅に着いた。 駅を降りると周りの景色が何だか変だ。 後ろを見ると駅がない。振り返ると、刀を持った人が立っている。さむらいのようだ。 「やあ、菜の花の種をありがとう。私は小栗上野介と申します。ところで突然だが、ネジは大切じゃよ。」 「え、ネジ?どうしてネジが大切なの?」 「私は以前使節団に入り、アメリカの造船所を視察したんじゃ。アメリカでは同じ大きさのネジを機械で大量生産しているのに興味を持ったんじゃ。そしてこのネジをお土産としてもってきた。すごいだろう。このネジを日本で作ることができれば強い国になれると考えたんじゃ。君の腕にはまっているものにもネジは使われているはずじゃ。」 そう言われて、ぼくは腕時計を見た。 「本当だ。ネジが使ってある。このネジは小栗さんがきっかけで作られるようになったのか。」 その時、小栗さんの手のひらにあったネジが突然しゃべりだした。 「せっかくだから、小栗さんと一緒に遊んでゆけば?小栗さんは魚釣りが上手なんだよ。この間なんかたった五分でイワナを百匹も釣り上げたんだよ。」 「へー。小栗さんて釣りの名人なんだね。」 「私の釣り針に、何か大きいものがかかったようじゃ。」 急に、小栗さんがつぶやいた。 「ぼく手伝うよ。」 「えっさー。 ほいさー。」 二人で一気に引っ張った。なんと、タイが釣れた。とても大きなタイだ。川でタイが釣れるなんてびっくりだ。 「君がいたから釣れたんだ。タイが釣れてめでタイのう。」 小栗さんは、意外と面白い人だ。 「そういえば、あなたはここに何をしに来たの?」 さっきのネジ君がぼくに聞いてきた。 「お寺の栄吉さんに会いに来ました。」 「なるほど。じゃあ、ぼくについてきて。」 「このお寺ですよ。」 お寺の真正面にはお墓があった。墓石には文字が彫ってある。 「あれ、小栗上野介さんの墓だ。あれっ、小栗さんとネジ君がいない…。なんか変だぞ、あっ、お父さんの腕時計がまたくるくる回っている。」 |
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「ごめんください。栄吉さんはいらっしゃいますでしょうか」 「栄吉? そんな人はいませんよ。私はこのお寺の住職です。」 「おかしいな。ぼく達が飛ばした風船を拾ってくれた人の住所がこちらだったんです。栄吉さんという方から手紙が届いたんです。」 「もしかしたら、小栗上野介さんが過去から現代にいる君に送ったのかもしれませんね。わかりませんけどね。」 ふと見ると、お墓の後ろには一面の菜の花が咲いていた。 アメリカから持ち帰ったネジを大切だと言った小栗さん。君がいたからタイが釣れたと言ってくれた小栗さん。そしてちゃんと菜の花の種をまいてくれた。 「僕も小栗さんのようなひとになりたいな。」 帰りの新幹線の中で、ぼくはお父さんの腕時計を見ながら、ずっと小栗さんのことを考えていた。 家に帰り、ぼくはお父さんとお母さんに、この不思議な体験の話をした。 「小栗上野介さんかあ。歴史でならったな。勝海舟が五百年かかると言った造船所をたった十年で作った人だね。でも出来上がる前に死んでしまったと聞いているよ。」 ぼくは、小栗さんがネジは大切だといった理由がわかった。ネジを造船所の基本と考えたんじゃないかな。 そしてどんなものでも、基本の積み重ねであるということをぼくに言いたかったんじゃないかな。 ぼくはその日、なかなか眠ることが出来なかった。 おわり |
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◆作者の佐竹海飛君は—風船の縁 ・2013平成25年4月29日に、住職が草津温泉の奥の渋峠スキー場(群馬県・長野県の県境)でリフトに乗っていたら、前方に小さな風船がふらふら飛んで右手の林に降りてゆくように見えました。リフトを降りて友人とそちらへ行って少し探すと、木の枝にひっかかっています。 ちょっと高くてストックでも取れない。友人がザックのヒモをほどきストックを二本つないで、枝から外すことができました。 ・手紙がついていて、「といで菜の花フェスティバル」で飛ばした小学2年生たちの風船でした。朝飛ばしたものが、お昼過ぎには群馬県まで来ていたのです。 ・しぼんでいる風船も一緒にありました。童話にあるように、遠くまで飛ばそうと友達の風船のヒモをいくつかからめておいたおかげで、「ガンバレ、ガンバレ」と助け合って峠を越え群馬県側までたどり着いたのでしょう。 「拾いましたよ」と手紙を書いたのが縁で、海飛君と手紙を交わすようになりました。 そして、4年後にこういう楽しい童話作品を書いてくれました。 小栗上野介さんが喜んでいることでしょう |
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