住職のコラム唯我独尊

天上天下唯我独尊
(てんじょうてんが ゆいがどくそん)

           天にも地にも我ひとり尊し

 4月8日がお釈迦(しゃか)さまの誕生日(花まつり)、ということはごぞんじでしょう。そのお釈迦さまは、誕生と同時に右手で天を指(さ)し、左手は地を指して「天上天下唯我独尊」と叫んだのだそうです。これを文字通りに解釈すると、いかにもお釈迦さまが「世界中で自分だけが一番えらい」と叫んだように聞こえますが、それではお釈迦さまの本当の心を理解したことにはなりません。

 人と比べて私が尊い、というのではなく人と比べることのできない私だけの尊さを自覚(じかく)することが、私たちの大事なつとめである、と教えた言葉です。この自覚をしなさいと教えるのが仏教です。

ヤマブキと
ふろしき観音
(東善寺境内)

 よく「何のために勉強するのか」「何のために働いているのかわからなくなった」という相談を受けることがあります。ことに戦中戦後の苦しい生活をしていた頃の目的である「豊かな生活」が、いまほとんど実現され、食べるもの、ほしいものがどんどん手にできて、仕合わせに見える若者たちが、かえって学ぶ目的や働く目的や意味を見失い、迷っている姿はかわいそうでなりません。

 名誉(めいよ)や地位、お金のために働くなら、それは名誉・地位・お金の奴隷(どれい)にすぎません。何のために生きているのか、生きていることに価値(かち)がなければなりません。生きていること、そのことが目的でなければなりません。

 この世にたった一度生まれてきた自分を本当に活(い)かし、この命をはぐくんでくれた親兄弟・山・川・草・木の持つ生命をもう一度よく見つめて、本当の人間らしい人間になること、そのために自分の中にある人間性(仏教でいう仏性・ぶっしょう)を発見し、仏性を信じ本物に磨き上げることが仏道です。

 人は一人一人みな仏性(ぶっしょう)を持つ、とお釈迦さまは説かれました。他人のマネでない、自分にしかない仏性をみんな持っています。

 いま季節は春。ふと足元に咲く一輪の花にこの世界の生命を拝(おが)み、自分のいのちを精いっぱい咲かせることの尊(とおと)さを自覚しましょう。人生の目的はあなた自身の生き方の中にあるのです。それは自分自身を高め、よりよき人間として生きる道です。

(1987・昭和62年4月・東善寺だより)