住職のコラム(東善寺HP)  雪で立往生の電車で極楽を見た女子高生   


 
雪の新潟県三条市
雪で立往生の電車で極楽を見た女子高生
 

平成30年1月、新潟県三条市の信越線で大雪のため電車が夕方から翌朝までおよそ15時間も立ち往生してしまいました。勤め帰りや学校帰りの乗客で満員、さぞ大変だったことでしょう。4両編成の電車で幸い電気は通じていて暖房はありトイレもありましたが、立ったまま過ごした人もいたのではないか、床は雪でびしょびしょに濡れていたろうから座り込めず大変だったろう・・・夜のニュースを見ながら心配していた。

 さいわい夜中に雪はやんで翌日朝に乗客430人が救出された時の様子をテレビが報じ、体調不良で救急車で運ばれた人も何人かいた。 近くの道路に代替バスが到着し電車から降りた乗客がバスに向かっている。
 
 「大変だったでしょう」と降りて来た二人の女子高生がカメラを向けられ、インタビューを受けていました。
 「ええ、大変でした。でも…」と女子高生は答えています。オヤ、「でも・・・」って何だろう?

マンサク 
厳しい寒さに耐え、雪が消えると真っ先に春を告げる

「電車ではみんながお互いに席を交代したりして、譲り合ってなごやかに過ごしていたので、ほかにもいい場面を見られてうれしかったです…」
 高校生は、雪の中で動かない電車で一晩過ごした疲れよりも、その場に居合わせたことがよかったような口ぶり。隣の友達に「ね」という顔を向けると、友達も「うん、うん」とうなずいていました。 

お釈迦様は、あなたが持っている力を人に分ける行いが亡くなった人の供養につながる、と示しています。

ではあなたはどんな力を持っているか―。
 「ここにかけませんか、交代しましょう」と自分の席を譲るのもあなたの力、
 「これを食べて下さい」 「この品・道具を使って下さい」と差し出すのもあなたの力、
 「このお金を使って下さい」と差し出すのもあなたの力、

 お金や品物でなくても
 「疲れたでしょう」
 「つらかったでしょう」
 「苦しかったでしょう」 とやさしい言葉、いたわりの言葉をかけるのもあなたの力、

 優しい眼、いたわりの眼で見るのもあなたの力、
 笑顔で接するのもあなたの力、

仏教ではこういう行い全てをまとめて「布施」と言います。誰でも布施をする力を持っている、ということになります。
立ち往生した電車の中で乗客は互いに布施をして過ごしていた、ということになります。大勢の人が乗っていたのですから、いい話ばかりではないかもしれません。でも女子高生がなにかうれしそうに語るテレビ画面で、電車の中の様子を想像してこちらまで心が暖かくなりました。
 「極楽」は「ごく楽にいられるところ」、乗客の心がけでまわりじゅう雪だらけのつらい電車の中で、互いに「布施」をしあって極楽を生み出していたことになります。

いま外国人観光客がたくさん日本に来ています。そういう外国人が共通して「日本人は優しい」「日本人は他人に対して思いやり・敬意を持って接してくれる」と語っています。

  日本人は、江戸時代の戦争をしない260年間に生まれたゆとりが教育文化を育(はぐく)み、こういう時にお釈迦様の教えを当たり前のこととして実践する高い民度を育てていたのでしょう。
                    (2019平成31年4月東善寺だより151号)



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