住職のコラム                  中道
         中  道(ちゅうどう)

 「涅槃経・ねはんぎょう」というお経に出てくるお話です。

 ある家に美女が訪ねてきました。若くてきれいで、着ているドレスも豪華です。
 「私は吉祥天(きちじょうてん)よ。福徳(ふくとく・しあわせ)をさずけてあげるわ・・・」
彼女はそう言います。吉祥天といえば、福徳円満の有名な女神です。一説には七福神の一人ともいわれています。

 喜んだ主人が「どうぞどうぞ」と招き入れたのはとうぜんです。
 ところが・・・、吉祥天が家に入ったあと、門前にもう一人女性が立っています。こちらは見るからにみすぼらしい姿の女です。
 「おまえは誰だ」
 「わたし? わたしは黒闇天(こくあんてん)よ。わたしの行くところ、必ず災厄(さいやく・わざわいごと)が起きる貧乏神(びんぼうがみ)よ・・・」
女は、主人にそう答えます。
サクラソウ

手前は
オキナグサ

 「おまえなんか、とっとと消えうせろ!」
 主人はそう怒鳴(どな)りました。ところがそのとき黒闇天はこう言ったのです。
 「オホホ、あなたはバカねえ・・・。さっきの吉祥天はわたしの姉よ。わたしたち姉妹は、いつもいっしょに行動しているのよ」
 そう言って、黒闇天とともに吉祥天も去って行きました。

 吉祥天と黒闇天のように、いいことと悪いことはいつもペア(対・つい)になっています。

 そのことをいつも頭のすみにおいていると、不運にうちのめされかけたとき、大きな心の支えが得られます。つまり、「今わたしのところに黒闇天が来ている。この女神と仲良くしていれば必ず横から吉祥天が援助してくれる・・・」と信ずることができます。

 もし逆にあなたに幸運が続いているとしたら、むしろ自重(じちょう)すべきです。勢いに乗って暴走(ぼうそう)すると、とんでもない失敗(しっぱい)をすることになります。

 仏教では、いいことばかり求めてあくせくする、うまくいかないときくさったり、投げやりになる、こういった極端(きょくたん)を避(さ)けた生き方をすすめ、「中道」といいます。

             (1987・昭和62年1月・東善寺だより)